またまた、島田和夫作品からだが、
「……竹薮は極楽坂の園に黒々と蟠っていた」
とあった。
そこで問題。
(1)「蟠っていた」……、これが読めるだろうか。
(2)「竹薮は黒々と、どうなっていたのだろうか」……その情景がわかるだろうか。
「蟠」は[虫]+「番」の会意形声字ですから、すなわち「ハン・ホン・バン」という読みとともに「番」という形をした「虫」類だということがわかります。
では「番」とはどんな形なのでしょうか。
説文解字には「獣足、これを番という」とあり、してみると「蟠」は獣の足の裏の形をした「虫」なんだなと見当がつく。新版漢字源ではこれを「わらじむし」だと編者・藤堂氏はいう。
ワラジムシというのは、床下や落ち葉・石などの下に住み、触っても球状にはならず扁平のままべたっとしている虫だ。
こう考えていくと「……竹薮は極楽坂の園に黒々と蟠っていた」の意味が、だんだんわかってくる。すなわち……ここは、
【まだ夜が明けきらない時刻であり、あたり一面が黒々として見えるときだから、「竹薮」は「極楽坂の園に」ワラジムシがべたっと平面を覆ったように「蟠って」いた】というのである。
この作者の表現力のすばらしさがよくわかるではないか。感服してしまう。これが作家の表現力なのだ。
さて、そこで「蟠る」の「読み」はまだわからない人もいるだろうが、「蟠る」の「意味」からいこう。
「蟠る」は「わらじ虫」だといったが、もとは(1)輪状にぐるぐる巻く・とぐろを巻く(2)ぐるぐると平面をめぐる(3)不快な感情が滞って心が晴れない(例)不満が蟠る、などといったことである。
使い方としては「蟠りを残す」「蟠りが解ける」「大蛇が蟠る」のように、いろいろに使うわけだが、「蟠る」の読みがわかったろうか。
じらしているようで申し訳ないがもう一行読んでもらいたい。
正解は「わだかまる」である。もちろん常用漢字の中に入っていないので、平仮名書きでよい。